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本当は青森が舞台の映画『八甲田山』は通過点で、その先にある北海道・網走がこの話題のゴールであったのですが、随分と話が逸れて今いましたので、逸れついでにもう少しだけ『八甲田山』について。この作品における現場の狂気は、感染と増幅を繰り返し更なる狂気を求めて彷徨うことになります。雪山の美しさと恐怖を映像に収めた名カメラマンの木村大作冬の立山を舞台にした『劒岳 点の記』や奥秩父の山小屋が舞台の『春を背負って』などの映画を自ら撮影兼務の監督としてメガホンを取る事に。
当時は機材の品質も低く、うまく雪の白さを表現出来なかったと述懐していた木村大作は、『劒岳 点の記』で恐ろしいほどに美しい雪山を捉え雪辱を果たすことになります。ただ私としては、画質こそ不鮮明ではあるものの、吹雪の中のブルーにくすんだ雪にひどく恐怖心を煽られました。それは私が知る季節の風物詩などという甘いものではなく、人間が踏み入ってはならない季節に聖なる地に足を踏み入れてしまった雪山の怒りのメタファーのようでもあり、意思すら感じられるほどでした。
更に狂気は健さんにも感染。凍傷になりかかったにも関わらず、その後更に過酷な『南極物語』で、再び雪に挑むことになろうとは・・・!ところで映画の中で、完全に道を見失った北大路欣也の隊が、荒れ狂う吹雪の中で、木の枝が不自然に折れられている事で、それが目印だと信じてその方向に進み、更に遭難してしまうという場面がありましたが、冬の雪山で樹木の枝を折って目印にするって映画やドラマではよく見かけるのですが、実際にどれだけ有効なものなのか疑問に思いました。
以前このブログにも書きましたが、八甲田山の近くにある白神山地のブナの原生林についても、そこにブナが根づいたのはおよそ3000年前の事らしく、それ以前は東北地方もまだ温かくてブナの適地ではなく、ナラやクルミなどの森だったそうです。4000年前ぐらいから地球の温度が下がり大雪が降るようになると、雪の重みで枝や幹が折れナラたちは衰退し、代わって寒さにも強いブナが出現して、今に通づる原生林を形成したという事を不意に思い出しました。
幸いな事に自分は今までそういう事態に陥った事はありませんが、雪山でなくとも余程そこの地形に精通していなければ、目印となる樹なんてどれも皆同じに見えますし、雪でも積もれば枝も折れることだってあるし、高さの感覚も変わると思うのです。それゆえに地元の案内人が重要なのに、こともあろうに三国連太郎は、小遣い欲しさ目的だろうと農民を罵倒し案内を断るのです!一方、健さんは道案内に雇った村娘(チョイ役に古手川祐子!)に対して、全員敬礼で感謝の意を尽くします。
昔はどうでもない場面だったと思うのですが、今観返すとなぜだかそのたびごと胸が熱くなって涙が出そうになるのです。そんな礼節のある健さんだから、道に迷う事も無かったのです。気分次第で方針をコロコロ変えて無謀な行動に出る三国連太郎に向かって叫ぶ私の声はいつも届かない・・・「そっちじゃないんだよ〜!お前は黙って欣也に従えばいいんだ〜!」。リーダーたる者いかに冷静な判断を下し皆を率いるべきかの教訓としても私は繰り返しこの映画を観続けるのです・・・
遭難こそしなかったものの翌日は凍傷ならぬ筋肉痛に・・・。『八甲田山』は1977年度の日本映画の興行成績で日本一に輝いたものの、豪華出演者、長期ロケといった撮影規模の割には、製作費が三億円という低予算で、現場では『ひとでなし逸話』も数多く残されています。中でも、鬼カメラマンの異名を取る撮影監督木村大作にまつわるエピソードは凄まじく、あまりの寒さに動きの鈍った俳優たちを鼓舞するために、極寒の十和田湖に自ら飛び込んだ!という自殺まがいの無謀な行動。
その狂気は、スタッフたちにも伝染していき、俳優たちは連日撮影前に衣装に水をかけられ、凍った軍服を着せられた上に、更に雪をかけてリアルな寒さを演出したとか・・・。以前このブログで、突き抜けた狂気の監督と役者という事で、ヴェルナー・ヘルツォークとクラウス・キンスキーの事を書きましたが、あちらは、熱帯のジャングルの灼熱の熱さの中で身も心も狂ってしまいましたが、『八甲田山』は正反対に極寒の寒さの中で思考回路が凍りついてしまったのでしょう。
現場の狂気を、映画というフィルターを通して観る事に観客にしてみれば、その狂気が凄まじければ凄まじいほどに興奮し熱狂するのです。フィルムに記録され編集された時点ですべて虚構のドラマを盛り上げるための演出でしかないのです。だから本来私としては、NGシーンをサービスのように付けるのは興醒めでナンセンスだと考えています。さて、この映画で極限状況に憑りつかれてしまった人々は、懲りることなく何度も同様の危険で狂おしい現場へと導かれていきます。
その後監督の森谷司郎は、大正時代に木曾の駒ヶ岳で実際に起きた学生と生徒の遭難事故を描いた『聖職の碑』を撮ります。こちらも小説化したのは新田次郎ですが、この本は昔保母をしていた母親に薦められて読んだ記憶があり、しばらくは、先生は職業を超越した聖職なんだと信じてやみませんでした。その後も森谷監督は、漁夫が絶海の孤島に流される『漂流』(原作は吉村昭、その主役もこれまた狂気が伝染した北大路欣也!)、健さんと組んで青函トンネル工事を描いた『海峡』・・・
などなど追いつめられた環境での骨太の人間ドラマを描かせれば右に出るものはいない『極限状態映画の巨匠』の地位を確立したのです。なにせその前には『日本沈没』を撮り、最後は『宇宙からの帰還』(立花隆の原作(ノンフィクション)は、私を宇宙浪漫に開眼させ、〔神=創造主〕の存在を信じるようになったバイブル!)の映画化を準備中にお亡くなりになった方ですから。そのため映画『宇宙からの帰還』は、原作の面白さがまったく反映されないただのドキュメントフィルムになっていたのは返す返すも残念。もし森谷司郎が生きていれば、きっと原作を大幅にリライトして、『ゼロ・グラビティ』や『アポロ13』のような息づまる壮大なドラマに仕上げた事でしょう。究極の極限映画を撮りあげてほしかったものです。当然その時は、実際に宇宙ロケが行われ、宇宙ステーションでのドラマを、宇宙空間に飛び出した木村大作がカメラに収めていたはず・・・収拾つかず更に明日へ。
『居酒屋兆治』も『駅STATION』もいずれも舞台は北海道で、寡黙な耐える男・高倉健には北の大地が似合います。ただどちらも大雪が背景というわけではなく、「雪と健さん」といえばやっぱり『網走番外地シリーズ』と『八甲田山』。タイトルを聞くだけで、極寒の名場面の数々が思い浮かんで震えそうになるほど。とりわけ、『八甲田山』についてはかつてリバイバル上映で映画館の大きなスクリーンで観たため臨場感も半端なく、本当に劇場で手足の先が寒くなるような冷感体験を味わったものです。かなり脚色、創作はあるものの、この陸軍による雪の八甲田山行軍は明治35年に実際にあった(八甲田雪中行軍遭難事件)もので、行軍に参加した青森の連隊210人中、199人が死亡するという痛ましい事件で、新田次郎氏が小説として発表しました。
健さん扮する徳島大尉と北大路欣也扮する神田大尉は、上官の無謀な命令によって冬の八甲田踏破訓練の指揮官に選ばれます。いくら馬鹿げていると分かっていても上官の声は神の声、異を唱えよう事など出来るわけもなく、両隊は八甲田山ですれ違うという行程の雪中行軍が決行。最低限の少人数で長い行程を組んだ徳島大尉に対して、自分の見栄のためだけに自分も大隊本部として同行するように隊を大編成せよと唱える大隊長役の三国連太郎の憎々しいこと!
案の定、自然は彼らに牙をむいて襲い掛かるのですが、吹雪が舞う大雪原の中をCG無しの体当たりの熱(寒)演で、芝居を通り越して気の毒に思えるほど・・・ヒートテックなんて無い時代ですから、いくら厚着をしてカイロをしこんだところで、下手をすると本当に凍傷になりかねない超危険な撮影。実際にあまりに過酷なロケに耐えきれず、現場から逃亡した役者もいたそうですし、健さん自身も軽度の凍傷になったとか。3年にも及んだ撮影はまさに八甲田山の雪中行軍を地で行く無謀なものであったのです。
完全に道を見失い、荒れ狂う吹雪の中で北大路欣也がつぶやく「天は我を見放した~!」という台詞が流行するなど映画は大ヒットを記録しました。年末に何度も繰り返し観た私の脳には、膝まである雪の中を行軍する健さんの姿が焼き付けられ、ある忘年会の後は酔い覚ましもあって、少し歩いていたら、そのシーンが蘇ってきてウォーキングハイの状態になってしまい、そのまま街から自宅まで(約6.5キロ)たっぷり1時間半ほどかけて『独り行軍』してしまったのです・・・。更に明日に続く
実家で迎えた雪の正月、白銀の世界に一変した故郷の風景を見ながら頭に浮かんだのは、道なき道を歩く高倉健さんの姿!昨年末にご逝去されて、自宅でひっそりとひとり追悼DVD鑑賞会を開いていて、その間に何本もの健さんの映画を観ていました。世代的には、任侠映画の唐獅子牡丹の渡世人・花田秀次郎ではなく、元ヤクザで今は堅気として暮らしている無口でタフな初老の親父キャラとして受け入れてきました。主演映画で言えば『幸福の黄色いハンカチ』や『冬の華』、『動乱』、『野生の証明』などなど。
中でも私が一番好きな「高倉健」は、『駅STATION』と『居酒屋兆治』。かつて高校野球のエースとしてならした男が、栄光の青春時代と挫折を経て小さな居酒屋を夫婦で営んでいます。周辺からはお人よしとからかわれれもいつも頭を下げるだけ。学生時代の先輩(伊丹十三)に絡まれても耐えていた兆治の堪忍袋の緒が切れる瞬間のカタストロフィイたるや、まさに花田秀次郎の殴り込み!しかし何かに兆治に難癖をつけて悪態をつく伊丹十三の嫌なクズっぷりは、同県人として申し訳なくなるほどの名演。
「人が人を思うことは誰にも止められない」というキャッチコピーもよかったですが、舞台が場末の居酒屋という事で派手さはないものの出演者の顔ぶれを見ると豪華絢爛。人生いろいろありまして、それでも男は黙って生きていく的なお話と、そんな健さんに迷いなくついていく奥さん(加藤登紀子)。まあ今にして思えば、随分と男目線の都合のいい話ではあるのですが(兆治の元恋人が大原麗子で、火事騒動もあったり、警察沙汰にもなるものの)、それゆえに世の男の憧れのスターたりえたのでしょうが。
原作は山口瞳の小説で舞台は北海道の函館でした。ストーリーだけ文字で追うとかなり暗い話ですが、映像で見るとドライな印象を受けます。もう1本の『駅STATION』も舞台は北海道の札幌周辺ですが、こちらは脚本が倉本聰という事もあって兆治よりももっと抒情的な話です。それでも健さんとは『網走番外地』の頃からの古い付き合いの降旗康男監督が、抑制の効いた演出で、劇中テレビの紅白歌合戦で流れる矢代亜紀の『舟唄』のような大人の色気漂うしっとりとした印象を受けるのです。
実は兆治も降旗監督なのですが、同じ健さん主演でも雰囲気が随分違って感じられます。『駅』は、元妻にいしだあゆみ、飲み屋の女将に倍賞千恵子という配役もあり、他人との接触に控えめでドライな人間関係の『兆治』に対して、ひとの温もりに渇望するような『駅』の健さんに惹かれるのです。『駅』は、他にも永島敏行、古手川祐子、田中邦衛、小松政夫 、烏丸せつこ、根津甚八、宇崎竜童、室田日出男、池部良、佐藤慶、平田昭彦、大滝秀治など名優たちが総出演の大好きな作品です。続く・・・
インターネットに精通したキュレーターの皆さんが、雑貨、海外の新しいアイデアやニュース、絵本、家の中にいても楽しめる情報などをそれぞれの視点で取り上げ、その記事を公開されている『roomie(ルーミー)』というインドア系ライフスタイルメディアがあります。roomieとは、「room」と「ie(家)」を足した造語。先日、そのキュレーターのひとり、林美由紀さん からご連絡があって、そのサイトの中で【森のかけら】を取り上げていただく事になりました。
林さんはじめ、「伝えることに精通されたプロフェッショナル」の皆さんが取り上げられている商品や記事はどれもハイセンスなものばかりで、そんな中にあってはシンプルでマニアックな【森のかけら】が浮いてしまうのではと少し危惧もあったのですが、さすがそこは言葉のプロ!今まであまり取り上げていただく事のなかった『森の5かけら』に視点を置いて、つながっていくかけらの物語性を素敵にまとめていただきました。
自分で書くとつい「伝える」ことを忘れ、言葉に酔って熱くなってしまうのですが、こうして冷静な第三者の方からその切り口の面白さを伝えていただくと、自分で読んでも分かりやすいと感じるので、『分かりやすく伝える事』の重要性を痛感します。商品のアイデアをひねったり、物語を組み立てる事に夢中になると、自分の中でお腹いっぱいになってしまい勝手に自己完結してしまい、アウトプット出来ない事が多いので、いつも反省しているところです。
最近、こうして女性の方の視点で【森のかけら】を語っていただいたく機会が増えているのですが、作り手としては同じ調子で手綱を握っているつもりなので、少し露出が増えてきたおかげで木フェチの女性の方と出会う機会が増えたのか、あるいは作り手とは別の感覚、視座で【森のかけら】に興味や関心を抱いていただいているのかもしれません。いずれにせよ、森と同様に多様な木(人)が集まる事でより豊かにより楽しくなります。林さん、素敵なご縁をありがとうございました。
http://www.roomie.jp/2015/01/226881/
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