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岐阜の銘木市場で圧倒的な存在感とボリュームを誇ったのは、銘木の王様『欅(ケヤキ) 』でありましたが、人気が高かったという点では『絹糸の気品・栃』が挙げられます。ここの市場だけでなく、今全国的に栃の板は人気が沸騰していて、ほとんどの材が落札されます。私がこの仕事を始めた20数年前は、決して人気のある木とは言えませんでした。当時から欅は別格の人気を誇っていましたが、栃は銘木とは言い難いような安い値段で取引されていました。 |
これで栃好きの溜飲が下がったわけではないのですが、木のめぐみとは直接的に材からのみ得られるものばかりではありません。その実や葉、枝や香りなどから間接的に得られるものも沢山あります。そういう知識や経験があれば、木の愉しみはもっと広がり豊かになります。特に『誕生木の商品』を作り始めてから余計に、木の周辺のものづくりにも一層強く関心が向くようになりました。骨まで使うためには、骨がどう使われてきたのかという歴史や背景も知らねば。 |
銘木市場で売っているのは板や柱ばかりではありません。それら数々の銘木の元の姿でもある原木も販売してあります。弊社では時々地元で原木買いもしていますが、さすがに銘木が取れるようなこのクラスの巨大原木ともなるとリスクがあり過ぎて、鋸(台車)を持っていない材木屋としてはとても手が出るようなレベルではありません。私は原木から挽きあがりの板がイメージ出来る目利きの製材屋ではありませんので、今回は撮影に専念させていただきました。
その丸太もケヤキなどの広葉樹が多いのですが、倉庫の中には針葉樹の板も沢山あります。こちらの倉庫には九州の『霧島杉』の耳付き板がズラリと並んでいます。よく目が詰まって立派な杢目を持つ杉ですが、木としては日頃から見慣れた樹種なので不思議と親近感が湧きます。この他にも大径木のヒノキやスギもありましたが、ヒノキに対して銘木という呼び方を使うのは一般的にはあまり覚えがありません。あまりに身近にあり過ぎて、レア感が希薄なのかも・・・
木材業界でよく使われる言葉に『木の中でもっとも安いのもスギならばもっとも高いのもスギ』というフレーズがあります。例えば前者の代表が、1膳の価格が現在の日本で使われていない通貨単位の割り箸(銭)であり、後者の代表格が高級なものになると千万円単位もする屋久杉の調度品などです。つまり、それほど振り幅があるのがスギという木の魅力でもあるのです。針葉樹も充分素晴らしいのですが、広葉樹の奥深さはまたそれとは別の味わいがあります。
例えば倉庫の中で無造作に立て掛けてあったこちらの小さな木、蛇柄がとっても特徴的な『スネークウッド』という木。相当レア度の高いきで、滅多にお目にかかる木ではありません。この木の特徴は、以前『今日のかけら』でもご紹介しましたが、木柄を活かしたものづくりをされる木工作家さん方にとっては垂涎の的。端材といえども信じられないぐらいの高値がします!こんな木ですら無造作に置いてあるところが、銘木の聖地の聖地たる所以なのでしょう。
このレア度の高いスネークウッドが含まれているのが、【森のかけら・プレミアム36】です。スネークはじめレア感満載のプレミアな木たちが総勢36種揃っています。そのうち、30種がプレミアシリーズのみの樹種。後の6種類は、【森のかけら240種】の中から6種を私の独断でセレクト。一度スネークウッドの実物が見てみたいという好奇心のある方、銘木の世界の深淵を覗いてみようという勇気のある方、増税前に是非どうぞ!3月末までなら、税込6万円!
ひと口に銘木と言ってもさまざま。これが銘木でこれは銘木ではない、という確たる定義はありません。一般的な定義では「稀少価値や鑑賞価値のある珍しい木」と言われたりもしていますが、世代や地域によってもその受け止め方や解釈にはばらつきがあります。設計士さんの中には、曖昧で分かりにくいという方もいらっしゃいますが、私などはそれだからこそ木は深くて面白い!杓子定規に測れないところが「生き物」相手の商売の醍醐味だと思うのです。
私にとっての銘木とは、「他とはちょっと普通とは違った癖のある偏屈野郎」。 そういう意味では、ここはちょっと変わった 変人・奇人の集まり。まあ並んでいる方もくせ者ならば、買う方だってくせ者ばかり。よそでは普通でないものが、ここでは普通。とりあえず翌日の本番に備えての下見ではあったのですが、テンション上がりまくりです!「これぞ銘木」と私が思う大きな特徴をご紹介。まずは形の変わりっぷり!変形、凹凸、大曲り、空洞、ふた股・・・。
次は色あいの変わりっぷり!赤、黒、緑、紫、縞柄、濃淡等々。土の中に数百年も埋まっていて地下水の影響などを受けてすっかり「木ではないものに姿を変えてしまった神代木(じんだいぼく)」などもその1つです。ちなみにこちらの紫色の木は、私の大好物でもある『パープルハート』。削ってオイルで仕上げれば、まさにムラサキ芋のような深みのある人工的とも思える紫色になります。今回は運よくパープルハートも数枚仕入れることが出来ました。
そして尋常でない大きさの見事っぷり!先日も電源開発(現J-POWER)初代総裁高碕達之助氏の言葉(『進歩の名のもとに、古き姿は次第に失われていく。だが、人の力で救えるものは、なんとかしてでも残していきたい。古きものは古きがゆえに尊いのである』)を引用させていただきましたが、巨(おお)きなる木も巨きなるがゆえに尊いと思うのです。それはもう、よくぞここまで成長したものだという畏怖と、それを使わせていただくのだという感謝の気持ち。
最後は杢目の変わりっぷり!杢にはその形態や樹種との組み合わせなどによってさまざまな名称が付けられています。ざっと杢の種類を挙げるだけでも、玉杢、縮み杢、鶉杢、泡杢、葡萄杢、笹杢、蟹杢、牡丹杢、如鱗杢、まだら杢、波状杢、虎杢、鳥眼杢、虎斑、カーリー、リボン杢、リップル、スポルテッド等々、実に多彩で表現力も面白いのです。これも細かな定義があるわけでなく、かなり主観的な意見が左右されますが、それも楽しいしだから面白い。
そんなひと癖もふた癖もある銘木たちを眺めているだけでも飽きることはありません。あまりに楽しすぎて仕事にもならないほどだったんですが、正気に返り少しは冷静に木も観ることに。お金と保管場所さえあれば全部買ってしまいたいほど。その気持ちが高じて振り切ってしまうと、商売を離れて趣味の世界に入ってしまいます。いくらお気に入りの木に出会えたとしての、最後は手元から離さなければならない宿命。嗚呼、神はなんと残酷な運命を材木屋に与えたものか〜!!
今回の銘木の旅の旗振り役を務めてくれたのが、『浪速の栗屋』こと㈲橘商店の四代目社長・橘明夫君。明治42年に栗の専門店として創業し、それから100年にわたり名栗(なぐり)加工の専門店として確固たる地位を築いてきました。明夫君とは、日本木材青壮年団体連合会(木青連)の先輩後輩の仲ですが、ただ組織の会員というよりは、木に対して同じ志を持つ仲間。『名栗』については、「10月の誕生木・栗」の項で触れましたので、詳しくはこちらをどうぞ。 |
その昭夫君に以前から誘われていたのですが、なかなか日程が合わず悔しい思いをしていましたが、今回かなり強引にスケジュール調整をして、東京での3日間の『ギフトショー』から2日後に岐阜へ。しばらく県外の遠方への出張&市場での買い付けは控えていましたが、重なるときは重なるもの。この後も県外に用事が続きます。さて、今回のツアーに集結したのは、明夫君、明夫君の親父さんである橘善一会長(常に温厚で私は密かに花紀京に似てると思っている・・・)。 |
そして北陸石川からは、岐阜銘協通いのベテランにして、【森のかけら・北陸地区全権大使】、木の正しい使い道を実践する木の伝道師㈱ムラモトの村本喜義社長㊨と、村本さんとまるで親子のように(?)行動を共にする『日本でもっともピザの美味しい材木屋』こと㈱角永商店の四代目社長角永義隆君㊧(アンテナショップであるもく遊りんでは木食住にまつわるさまざまなイベントを開催されています)。それぞれのルートで岐阜に入って岐阜銘木協に集合となりました。 |
余談ながら先日のギフトショーでわれら『えひめのあるくらし』に興味を示していただいた石川県の才田春光さん㊧は、21世紀近代美術館などでも個展を開かれているそうなのですが、角永君の「もく遊りん」でもワークショップを開催されたことがあるそうです。同じ石川という事で訊いてみたのですが、なんと世間は狭いもの。いやいや、同じベクトルに向って走っていれば、遅い早いの差こそあれ、いつかはみんな同じフィールドで出会うという事か。 |
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さて、それでは本日より銘木の話。岐阜羽島からタクシーで移動する事10数分。岐阜銘協の土場には期待通り膨大な木がところ狭しと並んでいます。本番のセリは明日なのですが、先に下見してめぼしいモノを事前にピックアップしておかないと、当日ぶっつけ本番では到底間に合いません。あるとは聞いていたものの、さすがにこれだけ並ぶと壮観!まだこれでも多い時の7、8割だそうで、記念市ともなると足の踏み場もないほどの材が並ぶとか・・・。
昨今の住宅産業の洋風化、和室の減少、それに伴う銘木離れ、銘木店の倒産・廃業などによる量の減少銘木、各市場でのセリへの絶対的な参加人数の減少、それらの理由ににより競争原理が働かずセリの体をなさなくなっている事から、市場の形態がセリから「付け売り」(欲しい木をその都度電話などで注文して買うこと)へ移行する中、さすがは銘木の聖地。そんな地方の現状をあざ笑うかのごとく膨大な量の銘木が居並び、全国から「木の猛者」たちが集結。
セリの前日から下見の人の姿が絶えません。私も全国各地のいろいろな市場に行ってきましたが、多くの市場でセリが成立しなくなってきています。かつては愛媛でも木材市場はそれなりの賑わいがありましたし、面白い素材もそれなりに集まっていました。四国の物量に大きな変化が訪れたのは、瀬戸大橋が開通してからだと思います。それまでは、特定の業者が瀬戸内海を越えて県外から木を買付してきて愛媛で卸したりする程度で、愛媛県産材が主役でした。
その後、橋の開通によって私自身も県外にドンドン出向くようになりましたし、県外の遠方からの商品も一気に流れ込んでくるようになりました。それでも膨大な量を保管するストックヤードとしての役割として市場はそれなりの役割を果たしてきました。しかし物量の合理化・高度化が進むと、必要量を必要量だけ小口で直送届ける流れに移行し、市場は急速にその存在意義を見失い迷走することになります。市場にも「個性」が求められるようになったのです。
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