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昨日の続きです。
日本でも、その枝を繭玉に刺して正月飾りに使う習慣が残っており、別名『マユダマヤナギ』とも呼ぶ地域もあるようです。その姿形から『イトヤナギ』の別名もあります。また、太田道灌(おおたどうかん)が江戸城を築城した際に、鬼門にあたる場所に魔よけとしてヤナギの木を植えたのは有名な話です。そのことからも、ヤナギには神聖な力が秘められていると思われていたのではないでしょうか。う~ん、このあたりの『鬼門』、『魔よけ』、『護岸工事』あたりの言葉が『幽霊』に結びつきそうな匂いはしますが、定かではありません。
さらにヨーロッパでもヤナギは神聖な木とされています。古来より、ヤナギは月と女性に結び付けられてきました。月の女神の巫女たちが住んでいた場所がヤナギの精霊の名前に由来しているとか、愛知月と冥界の女神がヤナギの木の中に棲んでいたとか多くの神話に登場してきます。また、アイルランドの伝統では、ハーブの材料に使われてきました。中世のケルト人の吟遊詩人は、歴史の語り部でもあり、彼らが弾き語りに使ったハーブも神聖な楽器であったという事です。しかし面白いことに、全く逆の誤ったイメージもあります。
ヤナギの英名は『ウィーピング・ウィロー』といいますが、これも枝垂れを意味しています。また、他にも『バビロニア・ウィロー』という別名もあり、かつてバビロンにあったという事が命名の根拠だとされていますが、実はこれは誤りで、研究では別の種類だとされています。旧約聖書には、バビロンの川のほとりのヤナギに竪琴を掛けて泣いたというエピソードがあり、そのことから長らくヨーロッパではヤナギは悲嘆と絶望の象徴と思い込んでいたという迷信もあるようです。木に対すイメージも国や地域によっていろいろ違いがあります。
全般的には、ヤナギのイメージは良いのですが、何故に日本では『柳=幽霊』のイメージが出来たのでしょうか。昔は水辺の整備が脆弱で、水の事故や事件も多かったようです。ただでさえ灯りの乏しい時代、夜更けの闇に包まれた頃、その辺りに多く植えられた柳の細長い葉が風でユラユラと揺れると、あたかも人影のように見えたのでしょうか。ただ単なる観賞用としてだけでなく、河川の土手を安定させる役目も果たしてくれているのに、全く迷惑なイメージだと思います。刷り込まれたイメージというのは簡単には変えられませんから、『柳=幽霊』の印象が先にありきの方にとっては、あくまでも背筋の凍る涼感を誘う木に映るのでしょう。
右の画は、以前に愛媛県美術館で開催された世界的な影絵作家・藤城清治さんの展示会で購入した影絵のポストカード『柳のうた』です。誰でも一度は目にした事のある、藤城さんの影絵はどれも優しさに満ち溢れメルヘンチックです。この、池の傍に寝転ぶ蛙は何を思うのでしょうか。小野道風の「柳にとびつく蛙」がモチーフでしょうか?いい具合に柳の枝が風に枝垂れるのをのんびりと待っているように見えます。鳥獣戯画のようなユーモラスな1枚で、数あるポストカードからこの1枚を選んで購入しました。幽霊のイメージを払拭させてくれます。ヤナギはイマジネーションを膨らましてくれる素材です。
まあ今時ですから、幽霊というよりはゴーストと言うのかもしれませんが、ゴーストでしたらヤナギはしっくりこないでしょう。『ゴーストにウィロー』?アメリカ映画では、登場したとしてもシダレヤナギのように垂れ下がる『柳』ではなく、天高くそびえるハコヤナギ系の『楊』の方でしょうから、シダレ派の私には馴染みがなく、判別出来ません。ちなみにヤナギを表わす漢字には『柳』と『楊』がありますが、中国ではその使い分けは、垂れ下がるシダレヤナギやネコヤナギなど『ヤナギ科ヤナギ属』のものが『柳』で、天高く伸びるセイヨウハコヤナギ、ポプラなど『ヤナギ科ヤマナラシ属』を『楊』として区別しています。
やはり私の中の原風景は、岸辺でユラユラと風にそよぐシダレヤナギ(枝垂れ柳)です。「蛙が飛びつくヤナギの話」も「ヤナギの幽霊」ももはや遥か遠く、思い出の中の昔々の古きよき日本の川岸の風景の中にしか居場所がないのかもしれません。
実は今回は、コメントのリクエストに応えさせていただきましたが、fujitaさん、こんなものでご満足いただけましたでしょうか?お粗末でしたが、これからも出来る範囲内でリクエストにもお応えさせていただきますが、くれぐれもあまり過剰な期待はなさらぬように・・・あくまで一介の材木屋風情でございますから・・・。
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