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和と洋、新旧がさり気なく並んで顔を揃える「チカミハウス」で採用される木材は、それなりの「表情」を持っていなければなりません。単にフローリングとの相性云々の話ではありません。「個体」を見て、やれ節がどうだ、杢目がどうだ、色ムラがどうだと小さな世界観でしかモノを見ることが出来ない偏屈材木屋にとって、妄想建築家が描く世界観は雲の上、闇の中・・・。現場で取り付いて、養生がすべて取り払われて初めて・・・ああ、そういうことだったのかと、毎回毎回、図面に現れる事のない「色の世界」に魅了されるばかり。
今回はストリップ階段ですが、取り巻く環境は、漆黒のアイアン・フレーム。木目のくっきりした茶褐色のタモのフローリング。さあ、階段に使う木は?この鮮烈な赤褐色は、妄想建築家の代名詞ともいえる『カランタス』!私の中で持て余し気味だった『カランタス』から新たな魅力を引き出し、通常ではあり得ない超小幅の天井材という、主役喰いの渋い役柄を与えてくれたのも彼女のキャスティングです。今回は天井から足元へ。天井の繊細さから打って変わって大柄な木目を生かしたカランタスの階段材。
植物性オイルを塗っただけで、素地が濡れ色になってより赤身が強調されていて、古材の梁が交差する落ち着いた雰囲気の「チカミハウス」においては、強めの色合いだったのですが、数多くの方が訪れた見学会当日、階段の事を尋ねられる人は皆無。それだけこの空間に馴染ませていただいたのだと、妄想建築家の技量に感心得心。裸足で上がってきた小さな女の子が、階段気持ちいいね!とトントンとリズミカルに階段を飛んで下りていきました。このカランタス、決して硬い木ではありません。むしろ机の引き出しの内部に使われたりするなど、調湿性がある軽軟な材ですが、それは肌に優しく温かいという事。階段の手摺にもカランタスが使われています。一見すると冷たい印象のアイアンのフレームの階段ですが、肌に触れる部分に柔らかく温かみのある木の素材を使われた温もりの伝わる階段となっています。
今まで軽軟であるという事で、自分で用途を制限してしまっていましたが、リスクに怖気づかずに減点法ではなく加点法で、褒めて育てる式の妄想建築家のお陰で開眼!もともと、幅が300㎜以上の俗に言う『尺上(しゃくかみ)』以上の幅広い材が揃う事がカランタスの持ち味。それから、天井板、壁板、カウンター、テーブル、階段板と二の足を踏んでいた用途にもガンガン攻め込んでいます。気がついたら在庫がみるみる減少。まだまだ『出口』が見つかるかもしれないのに在庫間に合わず、ピンチ!なんて事になりかねない・・・?!
「チカミハウス」の完成見学会にて、室内にある家具や調度品は、展示会用ではなくすべてが施主様の所有物。あるいは「チカミハウス」の先の住人の方が遺されたモノ。そのどちらもがセンスの溢れる素晴らしいものばかり。例えばこちらの古代エジプトの壁画のデザインが施された照明、こんなものがさり気なく飾られたりしているのですが、それでいて何の違和感もない異国籍風空間。どれがどう少しでも自己主張すれば、調和が崩れる絶妙なバランス感覚。
古きものたちが新しい衣をまとい、かつてどこかで見た事のあるような懐かしさがある「新しいモノ」が随所に配置されています。こちらの建具も、幼き頃に目にした事のあるような郷愁を誘うデザインですが、新しく製作されたもの。昨今の高気密・高断熱の家とは一線を画するノスタルジックなデザインの建具や内装は、緊張感とは無縁の軟らかさに包まれていてで何だかホッとします。見学会にお越しの方からも、「これは古いもの?新しく作ったもの?」と質問が相次ぎました。
先の住人の方も木への造詣が深く、瀟洒な趣味をお持ちだったようで、使われていた木材にもそのセンスの良さが伺えます。右の材は、かつて地袋に使われていたものを削り直して棚に使われたものですが、『栃の縮み杢』が顔を覗かせています。同様の縮み杢が他にも天袋や玄関脇などにも使われていたので、恐らく縮み杢が気に入られて、まとめて共木で揃えられたのではないでしょうか。薄く削られていたので、反りもねじれもありましたが、それ以上にこの縮み杢に惚れたのでしょう。
栃は縮み杢の妙味が得られる木であるものの、一方で非常に乾燥が難しい木でもあり、特に縮み杢のように材の個性が際立つ部位においては、癖が集積しているため、よりねじれが出やすく、削り直しても建具として使えるレベルではなかったので、削り直して天袋から棚板にお役目変更。そして極めつけは今時珍しい本格的な『船底天井』の和室。この部屋だけは手を加えず、昔の姿そのままだそうです。快適という物差しでは計りきれない雅趣がここにもそこにも「チカミハウス」!懐、深し!
「チカミハウス」は、古民家のリノベーションという事で、逆にどういう床材を選択されるのかしらとこちらが興味津々。私が日々目にするのは単独のフローリングの姿のみ。それが現場に納められると、壁や天井やクロスや建具や、最終的には家具などとどういう風に調和していくのかまったく見当がつきません。材木屋の立場としてご提案出来るのは、施主の意図した漠然とした思いを具現化して、我々材木屋にも分かる言葉に変換・翻訳してもらう「設計士・演出家」が傍にいるからこそ。
それが同じ嗅覚・視覚を持つ「血族」であれば、より一層微に入り細に入ったご提案が出来るというもの!「あうんの呼吸」とでも言うべき、「感覚」が共有できれば話は盛り上がる一方。しかし真剣になればなるほど良い意味でのぶつかり合いもあります。設計士の妄想、材木屋の頑固、職人の矜持・・・施主様側の客席からは伺いしれようもない演出家とスタッフの激しい葛藤もあるのですが、そういう舞台だからこそ良いものが生まれてくるのだと思います。特に今回は10ヶ月近くに及ぶロングラン公演ですから、長い公演の期間中には大なり小なりの衝突もあります。ダラダラと仲良しクラブの学芸会では進歩はありません。良き舞台では、演出家とスタッフの間にはゆるぎない信頼関係と見えざる緊張感があります。その楽しい葛藤の様子は『はたらく石』にてお楽しみ下さい。
さて、『チカミハウス』で選ばれたフローリングは、『タモ』。60有余年の時がしっかりと刻み込まれた古材とのバランスを考えて、オイルを塗るとやや太目の木目がくっきりと明瞭になるタモが選ばれました。先に弊社の倉庫でオイル塗装させていただくのですが、納品時にはまだまだ壁や天井の姿は設計士さんの頭の中。完成してしまえば、もうこの家に『タモ』以外なんてありえないでしょう的な堂々とした風格すら漂わせながらそこに佇んでいるのですから・・・配役の妙。
この『タモのフローリング』ですが、ここ半年で人気沸騰の有望株です。年輪が緻密なので木目は大柄でも全体的に引き締まった印象があります。軽微な節や色ムラ、カスリも含むグレードですが、それがかえって『チカミハウス』の古き先住民とは相性が良いようで、古材と新材の違和感がありません。数年前から白系の床材が好まれる傾向がありましたが、それを使う明確な意図があってこそ、材も充分に魅力を発揮するというもの。『チカミハウス』で選ばれた素材にはすべて明確な演出家の意図が見てとれるのです。
先週開催されたイシムラトモコ建築設計+もみじ建築の完成(歓声)現場見学会、その名も「チカミハウス」。ちょっと現場見学会がご無沙汰だったのですが、久しぶりにお手伝い(お邪魔)に伺わせていただきました。週末の土・日の2DAYS開催で、私は2日目しか参加出来なかったのですが、熱い最中まあ、相変わらずの人気っぷりで人が絶えません。さすがは最強ゴールデンコンビ!独立開業されてまだ3年目ながら、実にさまざまな個性溢れる楽しい家造りに関わらせていただきました。
今回の「チカミハウス」は、新築ではなく、昭和初期に建てられたという古民家のリノベーション。今度はこういう家に取り掛かっていますとお知らせがあったのは、昨年に冬の事ですから足掛け9~10ヶ月ものロングラン劇場でした。その長期公演の舞台を造り上げたのが、『夢見がちな建築家』(設計士・イシムラトモコ)㊧と、『石頭職人を束ねる親分』(もみじ建築・乗松社長)㊨。現場を仕切ったのは、乗松社長が全幅の信頼を置く、もみじ建築のNO.2、松田棟梁。オールスタッフが勢揃い!
古い梁や桁を残して前面改装などという生易しい改築などではなかった事は、イシムラトモコ建築設計のHP『はたらく石』をご一読いただければご理解できます。こうして完成見学会で、設計士と棟梁が笑顔で並べるまでには、筆舌に尽くし難い本気の格闘があったことか・・・!その緊張感が高いレベルの家を完成させるのでしょう。まだまだ、このさきどうなるものやら見当もつかない時期に材料を納品させていただいてから相当久しぶりに当地を訪れてみれば、回り舞台のような変貌ぶりに驚嘆!
「チカミハウス」の名前の由来は、先の家主のお名前に敬意を表しての事とか。それだけで新しいこの家の主のお人柄が伝わります。古きを尊び、新しきを活かすと簡単には言っても、昭和から平成の時を経た古材と現代の新しい素材の間に横たわる60数年の溝を埋めるのは容易な事ではないはず。個人的には、単なる1アイテムとして古材を使うという事にはあまり共感を覚えませんが、先人のライフスタイルをここまで尊重して受け継ぐという選択には敬服に値します。チカミハウスにとって最適な住まい手との邂逅。さあ、舞台の幕が開きました!
その土場の敷地の一角に栗の木を植えているのですが、文字通り三年目にして実が付きました。本当は、2、3年目くらいは、実を付けさせない方が良いらしいのですが、植えているとはいってもほぼ放置状態ですから、気がついたら実が成っていたというレベル。小さな幹ですから、栗の実も小さなものが3つぐらいの事なのですが、それでも何だか実がつくと嬉しい気持ちになります。別に食用にするために植えたわけではありませんが、ささやかな喜び。これは是非とも味見してみたいものです。 |
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